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遅くなった、なんてもんじゃぁないな。
遅くなったじゃすまねぇな
ちょっと言い訳させてくれ、忘れてたんじゃないんだ。
忘れてたんじゃないんだと思いながら見上げる看板、万事屋銀さん。
万事屋の前に立つ土方の左手には、真っ白い箱が下がっている。
ケーキの入った箱だ。一昨日から屯所の冷蔵庫に入ってた箱だ。
巷でうまいと有名だったから、買っておいたケーキの。
だって銀時の誕生日だったんだ。たった一時間前までは!
…間に合わなかったとまた看板を見上げる。
万事屋の明かりは付いていない。
まだ明るい下のスナックのせいでなおさら暗く見えた。
深夜一時、子供も居るんだ、明かり付けてる方がおかしいだろうと溜め息をつく。
…あぁ、入れない。
ここまで来てなんだが、あそこに登って行く勇気がない。
約束したんだ、きっと行くって。
だから待ってろって言ったんだ。
でも間に合わなかった。
最低だ。
しばらくぼんやり、スナックの暖簾を眺める。
開いている手を握ったり開いたり。
せめてこれだけでも、置いていこうか。
このケーキ。
土方は、眉間にしわを寄せ。
罪は俺にあるのであってケーキには無い。
銀時はこんな俺の面なんざ見たくもねぇと思ってるかもしれねぇが、ケーキには違うだろ。
こう考えてそっと、その引き戸に手をかけた。
「おや、こんな時間から珍しいね。」
と声が聞こえた。
土方をみとめてお登勢が言ったらしい。
「あぁ…、そういうことかい。」
苦笑いしているような声色だった。
土方には店に入った途端視界に飛び込んできた白髪頭のせいで、実際お登勢がどんな表情でいるのかはわからなかったが。
そこから目を逸らせられないまま、無意識に足を止めた。
「とりあえず、掛けたらどうだい。」
酔いつぶれているのか白髪頭は、カウンターに突っ伏せたまま動かない。
「起こそうか?」
「寝てるんですか。」
「あぁ、起こしてやろうか。」
「い、いやそのままにしといて下さい。」
「そうかい、まぁ早く座んな。せっかくだからさ。」
とグラスが置かれたのは銀時から大分離れた席だった。
「あの、別に俺は飲みにきたわけじゃないんで。」
「そんなことはわかってるよ。」
でも一杯くらいなら、いいだろ。
「……。」
恐る恐る、席についてカウンターにケーキの箱を置く。
「それで、それをこの馬鹿に渡しとけばいいのかい。」
「え?」
グラスに酒が入った。日本酒らしい。
お登勢は慣れた手つきで瓶の蓋を締めると言った。
「その箱。」
今日というより昨日か、こいつの誕生日にあんたは来れなかった。
「話は聞いてるよ。」
からりと笑ってグラスをもうひとつ出してくる。
「隣、いいかい。」
「……。」
無言で頷く。
お登勢は灰皿を引き寄せて煙草に火をつけた。
そして土方が一口、酒を飲むとそっと話し始めた。
「今日は朝から誕生パーティーの準備でね、銀時追い出して子供たちとお妙とうちのもんと六人で。なかなか楽しかったよ。」
と煙を吐き出す。
「こいつもなんだかんだ喜んでたみたいだったし。」
「そうですか。」
「あぁ、で十二時過ぎたころからここで飲み続け。あんたが来ないからってふてくされてやけ酒さ。」
困ったもんだよ。
「……。」
ぐしり、お登勢の煙草を消す音がいやに大きく聞こえた。
「こいつ、そんなこと話すんですか。」
「時々ね。」
こんな仕事ずっとしてきて、色んな奴の色んな話聞いてきてて。
「ちょっとは話しやすいんじゃないかね。」
そしてふふと笑う。
「よかったらあんたの話も聞くけど。」
「いや俺は…。」
「遠慮はいらないよ。言いふらしてまわるような野暮なこともしないさ。」
それは、わかってますよ。
「そんな心配してないです。」
「じゃぁ、いいじゃないか。」
「……。」
まぁ、無理に聞き出そうなんて思ってないよ。
「もう一杯いくかい?」
「や、いいです。ほんとにこれ飲んだら帰りますんで。」
「そうかい。」
残り物でいいならなんか出すけど。
「……どうも。」
お登勢はひとつ頷くと席をたった。
カウンターの向こう側でしゃがみこむ。
「魚がある。」
焼いてあるやつ。
「いいですね。」
しばらくことことと、食器を動かす音がしていた。
「ほら。」
「どうも。」
漆塗りの黒い箸。
「いただきます。」
土方がそれを手に取るのを見届け、お登勢はカウンターを離れた。
「うまいかい?」
「……はい。」
それならよかった。
そうして土方は、酒をぐいとあおって言った。
「……あの。」
「なんだい。」
別にどうしても知りたいて事じゃないんすけどこいつ、どんな風に俺のこと、待ってました。
土方は、箸の先から目を離さないまま言った。
「俺、待たれてました?」
「……。」
お登勢はしばらく何も言わなかった。
こいつは何を言ってんだろうと考えていた。
「…当たり前じゃないか。」
「当たり前ですか。」
土方は一言ことわると、煙草を取り出した。
お登勢が灰皿をそっと置いた。
それからさりげなく中身の減った土方のグラスに酒をつぎたした。
土方はそれをちらりと見て無視した。
無視してそのグラスに口をつけた。
飲むんじゃないか、結局とお登勢は思った。
カウンターに肘をついてその、うつむいた横顔を眺めながら。
もうすでに、目じりが緩んできているようだ。
土方は、やっぱり聞いてもらっていいですかと言った。
あぁもちろん、とお登勢は答えた。
それが。
「こいつ、いつも俺のこと待ってんですよ。いつも待ってばっか。」
へぇ。
「でもまぁ、それはしかたないじゃないか。あんたには仕事があるし、こいつはろくでなしのプータローだし。」
はは、そうかもしれないっすね。
「でもだからって、こんなふうに俺を待つこいつの気持ちが俺にはわからねぇ。」
「それは、自分にはそんな価値がないって言ってるのかい?」
土方は黙り込んでさらに顔をうつむけた。
「銀時がなんで自分なんかを待つのかわからねぇって?」
「そういうことに、なりますかね。」
土方が言うとお登勢は、いやに優しい笑みをふわりその頬に浮かべた。
「あんた、やっぱり健気なんだね。」
え?
「そんなに真面目にこいつのこと想ってんだねってことさ。」
空になりかけの土方のグラスを引き寄せながら話す。
「だからこいつもあんたを待てるんだろうよ、どんなに遅くなろうとね。」
また酒をついだグラスを土方に渡す。
「愛しあってんじゃないかい、はは。」
寒気がするね。
はははと笑われ土方も、なんとなくつられるように口角をあげた。
「鳥肌たちますよそんなん。」
「でも悪くはないだろ。あんたがこうしてここに居る理由にもなるし。」
「……。」
土方はおもむろにグラスの酒を飲み干した。
かたんとそれを、カウンターに置いた。
俺がここに居る理由?
「俺は、間に合わなかったんです。」
こいつはまた待ちぼうけくったんですよ俺がまた、こいつを待たせて。
「誕生日なのに。」
俺だって祝ってやりたかった。
「だって俺はこいつに会えてほんとに良かったと思ってんだなのにこんな。」
なのにこんな風に俺はまた何もできなくて、だからここにいるそれだけ。
「それだけだ。」
そうかい、とお登勢は相づちをうったが土方は聞いていないようだった。
そこでまた酒をついでやると、黙ってのみだした。
目の縁から頬からほの赤く染まった顔で。
そうやって杯を重ねていくうちに、いつしか手が止まり土方はそのまま眠っていた。
お登勢が、まだその指のあいだに挟まったままだった煙草をとって消した。
その後で自分のに火をつけ、言う。
「聞いてただろ。」
「……。」
もぞりと動いたのはカウンターに突っ伏していた銀時だった。
「あぁ、聞いてたよ。」
「どんな気分だい?」
ちょっと考えて銀時は、酔いも吹っ飛んだよと答えた。
答えた銀時の頬も赤らんでいるようだった。
「はは、いいことじゃないか。」
これからどうすんだい。
「こいつのことだから、今日の非番の為に無理したんだろどうせ。」
上に持ってってちょっと寝せるよ。
「そうだねうん、これも持っていきな。」
差し出されたのは真っ白い、ケーキの箱。
「……おぅ。」
銀時はそれを受け取り立ち上がった。
意識のない土方を担ぐ。
「世話んなったなばばぁ。」
「そう思うなら家賃を払いな。一人で行けるかい?」
「あぁ。」
ありがとう。
「おやすみ。」
煙草の煙を吐き出しながら、二人の背中を見送った。
グラスと日本酒の瓶を片付ける。
店の明かりを消す。
「良かったね銀時。」
暗闇の中、そこだけが明るい煙草の先。
たまに揺れるそれを目で追いながら、お登勢は一人微笑んだ。
良かったね銀時。
生まれてきて。
大事なものをたくさん見つけられて。
失ったものもあって、それでもこの時を一緒に過ごせるひとがいて。
「…誕生日おめでとう。」
ぐしり。
そろそろ私は寝るかね。
・・・
以上!!
えー、最後に!私は銀さんが好きです。銀魂が好きです。
これからも好きです。こんな文章しか書けないですがおめでとう銀さん!!
・・・