銀魂(土方受)二次創作中心に小説。BL・流血表現等あり。嫌悪感を抱かれる方にはUターンがお勧め。
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土方は月に一回、俺のところへ髪をきりに来る。閉店間際に予約を取って。
予約の30分前から隅のソファで俺の仕事を見ている。
土方さんと名前を呼ぶと黙ってゆっくり歩いてくる。
目をつむって水の流れる音、鋏の動く音を聞く。
これぐらいでいいですかとか聞いてもちらっとも瞼を上げないままうなずいて、終わりましたよの合図でやっと鏡の中をのぞく。
ちょっと笑ってまた隅のソファに座る。
そして短くなった髪の合間から、俺の片付けをぼんやり眺める。
毎月、こんな儀式の後で俺達は恋人になる。
今日もそうやって俺の部屋になだれこんで、甘い夜を(まぁ、多少の抵抗はあったが)過ごした。
そんな日付が変わってしばらくたった、まだまだ余韻を味わっていたい布団の中でおもむろに土方はなぁ、銀時と言った。
「やっぱり俺、お前が仕事してんの見ると頭にくる。」
「……え?」
「俺以外の奴の髪を触ってるの見てると、妬けるんだよ。」
「えぇ!?」
枕の上に顎をのせた土方が横目でこちらを見る。
「なんで驚く。」
なんだよその恨めしげな視線は。
「だって…や、ほら。お前めったにそういうこと言わねぇし…。」
どうしろっていうんだ。
「じゃぁ、今度から家できってやろうか?」
「……。」
視線の痛さは変わらない。
「お前が来る日には他の予約は入れないようにしとくよ。」
「……。」
「……。」
「……。」
「…なんなんだよ!仕事やめろってのか!?」
「誰がそんなこと言った!」
「言ったも同じだろ!!」
布団をはねあげて、上から土方の横目を睨みつけると途端に土方は足場を失ったみてぇに不安げな表情になった。
「…そういうんじゃねぇんだ。」
じゃぁ、どういうんだよと思っていたら、土方はその頬をどんどん赤く染めていって、ほとんど叫ぶように言った。
「だって、お前が悪いんだ……俺は一目ぼれだったのに!!!」
「はぁっ!?」
どうやら交際半年にして土方が乱心したらしい。
だってあなたが好きだから
「と、とりあえず落ち着け…な?」
「俺ぁ、落ち着いてる。それより聞けよ…。」
土方は横になったまま、すっかり据わった目で言った。
さっきの繊細な表情はどこにいったんだ。
「なぁ、銀時。覚えてるか?初めて会った時のこと。」
もちろん覚えている。
「当然だろ。」
「そうか。俺がずっと行ってた長谷川さんの床屋にお前はいたんだ…。」
「専門学校時代の恩師だ。」
「聞いた。」
そうか。
あぁと答えて土方はゆるゆると回想を始めた。
大学進学でこっちに上がってきてから、ずっと俺は長谷川さんに髪をきってもらってた。
長谷川さんは一人で床屋をやっていて、そんな長谷川さんの硬い指は見た目に反して繊細に動いた。それを二人きりの空間で感じているのが好きだった。
なのにその日、カウンターでお茶を飲んでいた長谷川さんの隣には、謎のもじゃもじゃした白いものが転がっていた。
「それがお前だった。」
「…すみません、もっといい形容詞は無かったんですか。」
どこからともなく流れてくる風にふわふわ揺れて、きらきら光るそれが何なのか、最初はわからなかった。
「でもたぶん、それを見た瞬間に俺はもうお前に惚れてたんだ。」
「……あのさ、それってお前にじゃなくてお前の髪に、って言わね?」
「俺はお前とは違う。」
「ちょっと、誤解を招く言い方やめてくんない。まるで俺がお前の髪だけに惚れてるみたいじゃん。」
「…ちがうのか。」
「ちがうでしょ!」
「…続きを聞け。」
俺はそのもじゃもじゃに恐る恐る近付いてみた。
長谷川さんが苦笑してたのを覚えてる。あと、空調機のうなりも。
「困っちゃうよね。」
長谷川さんの声が聞こえた。
「一昨日からバイト頼んでるんだけどさー、ずっとこの調子。」
指し示されたそこには、よだれたらした間抜けな寝顔があった。
悲しいことに、それはもじゃもじゃとつながっていた。
もじゃもじゃは人間の髪だったんだ。
「うわ。」
思わず呟いたら、顔の中で目が開いて、生きてることがわかった。
「ショックだった。」
「ショックだった!?ショックだったの!?」
「ショックだった。」
「銀さんとの出会いが!?」
「やかましい。」
見ていたら、唇が動いて、ゆっくり低い声が言った。
「綺麗な髪だね。」
「……。」
ゆっくりと口角をあげていく、雰囲気がいやに重たかった。
「シャンプーしたげるよ。」
「え?」
長谷川さんは?
そう思って、隣を見ると、長谷川さんはただサングラスの向こうでやさしい笑みを浮かべているだけ。
どうやら俺を、このもじゃもじゃに引き渡すことに決めたようだ。
「どうぞ、こっち。」
きゅっと袖で口元をぬぐって立ち上がる様子は、寝起きとは思えない軽やかさだった。
「わかったか?」
土方は、布団の上でシーツをかぶって座った。腕を組んで偉そうに。
「早く答えろ。わかったか?」
「なにがわかるっていうんだよ。」
「……なんか思うことはないのか!?」
今の話の流れで?
「とりあえず…すっごく鮮明に覚えてるよ、あの感覚は。」
お前の髪が、初めて俺の指の間を通ったあの感覚。
そう言うと、土方はぐっと身を乗り出して怒鳴った。
「ほら、それだ!!」
「え、どれ?」
「お前は……っ。」
言いかけて、思い直したようにシーツを体にきつく巻きつけた。
「あの時もそうだった。」
時間がたつにつれてつのった想い。
一度に切る髪の長さはどんどん短くなっていた。
その分、床屋に通う回数は増えて、抑え込むのもいい加減いやになってきた頃。
床屋のもじゃもじゃ、こと坂田銀時は鏡の中の俺に向かって言った。
「そろそろ、知らないふりをするのも疲れたね。」
「……あぁ、そうかよ。」
知らないふりだと?偉そうに。
俺は鏡の中の銀時を睨みつけた。かしゃんと軽い音をたてて、鋏が置かれる。
「土方君。」
「……なんですか。」
「俺は、一生、お前の髪を切っていきたいです。」
誰にも、お前の髪を触らせたくないです。だから。
「俺と一緒になって下さい。」
「……。」
改まった調子で両手を膝に置いた姿が鏡に映っている。
馬鹿みたいだ。
それでも俺の喉元には、何か熱いものがせりあがってきていた。
「あの口説き文句は、一晩中考えた末のもんか?」
「ま、まぁ、そうですよ。」
俺は、いつのまにやら正座をして土方に向かい合っている。
「俺としてはなかなかいいもんだったと思ってるし、応えてくれたってことはお前もまんざらじゃなかったんだろ?」
「……。」
土方の視線は冷たい。
「さっきと同じ質問をさせてくれ。なにか、思うことはないのか?それ以外に。」
顎を突き上げて居丈高に言う。
思うこと、ねぇ。美容師としては最大限の告白じゃねぇか?
「馬鹿!」
「誰が馬鹿だ!」
「ここまで言ってもわかんねぇのか!」
「はぁ!?」
「お前が美容師だからこそまずかったんだよ。」
いいですか、と土方がいずまいを正した。
「お前は……っ。」
やっぱりここで詰まる。照れたようにうつむく。
「なんだよ?」
「お、お前は!俺のことが好きだって言ったことないんだ!」
「……え?」
「お、俺だって…。」
今更、言葉が無いと不安だとかそんなこと言うつもりはねぇけど。
「だけど、俺には髪しかねぇみたいで、そんな、お前は毎日、何人もの髪を触るのに…。」
シーツを引き上げて、顔を隠そうとするこいつがえらくかわいく見える。
「馬鹿じゃねぇの。」
「誰が馬鹿だ!」
「俺が、髪だけでお前に惚れたって、ほんとにそう思ってるの?」
「ちがう……。」
そうだよな、お前はちゃんとわかってるよな。
土方の手からシーツの端をもぎ取る。
「たしかに、悪かった。こうして改めて聞くと最低だわ俺の告白は!」
「だったら…。」
「おう!任せろ。今度は俺の話を聞いてくれ。」
潤んだ瞳と目を合わせる。
真っ赤な顔の中でゆらゆらと不安げに揺れている。
「俺はお前のことが大好きだ。」
愛してるんだ。
「そんなの今、言われても言わせたみてぇでなんの意味もねぇよ」
「聞け。いいか、これはプロポーズだと思ってくれていい。」
「ぷ、ぷろぽ…っ!?」
ぱちりと音をたててまばたき。
「一緒に暮らそう。」
俺達の愛の続く限り。
合った視線の距離をつめて、唇を合わせる。
こんなかわいい奴の、髪しか見ねぇ様な人間がいるかよ。
「ずっと一緒にいてくれ。お前の全てが、俺には必要なんだから。」
「……馬鹿っ。」
はじめからそう言ってればよかったんだ。
「言われなくてもそのつもりだよ!」
耳まで赤くしてそんな風に言う。
まったく。
笑いをこらえて、照れてるのもかわいいと思った瞬間、がつっと頭に衝撃がきた。
ほんの一瞬、意識が途切れた。キス直後の至近距離からのアタックだ。
「普通このタイミングで頭突きかますか!?」
「なにかしら、儀式が必要だろ。」
「儀式?」
「恋人になる前には。」
唇をとがらせて土方は言った。俺は思わず噴き出した。
「馬鹿だなほんと。」
「誰が馬鹿だって!!」
あぁ、はいはい、わかりましたよ。
馬鹿は俺です。
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