[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「……」
とうしろうくんのどこがすきかというと、ぼくとけんかしてくれるところとか、いつもがんばってるところとか、あと全ぶです
なぜすきかというと、とうしろうくんががんばっているのがかっこいいなと思って、ぼくもがんばれるからです
とうしろうくんががんばっているのをまもりたいと思ったからです
「……」
「ちょ、黙らないで」
「いや、だって読んでるのを、聞いてたから」
それもそうだなと銀時は言った。
だが、そうでなくても土方は何も言わなかっただろう。
実際に今も、何を言うべきかまるで思い付いていなかった。
というか俺の誕生日のために来たらしいのはわかるにしても(思いあがりすぎか?)、こいつはなんで今更こんなものを読んでるんだ。
なんでこんなふうに。
紙に隠れて銀時の顔は見えない。
土方はまた一口、麦茶を飲んだ。
「まだ続く?」
「もう少し」
「聞いてやる」
いやなことを言ってしまうのは、すきな人に会うと話すことがわからなくなるからだと思いました
それで、ぼくはとうしろうくんのことが大すきなので、たん生日におめでとうを言いたいと思いました
ぼくは広いこの世界で、とうしろうくんに会えてよかったです
おたん生日おめでとう
これからもいやなことを言ってしまうかもしれないけど、なかよくしてください
おねがいします
さようなら
坂田銀時より
「終わり」
そう言うと、銀時はゆったり息をついた。
それから居住まいを正すようにして、土方に向き直った。
「これをかいた時のこと、すごくよく覚えてる。見つけるまでは忘れてたけど…」
直前にお前の誕生日を知って、金もなかったしすげぇもん持ってる訳でもなかったし、手紙かくしかないって結論だった。
「うん」
土方は言葉を探し続けている。
「でも恥ずかしくなって、結局は渡せなかったんだよな、俺」
捨ててなくてよかった。
「なんとなく今も俺はお前と一緒にいるけど、改めて言葉にはしにくいことだから」
「キスもセックスもしてるのに?」
あー、こんなこと言いたいんじゃないんだけどなぁと思いながら土方は頬杖を突く。
答えはもう決まっているはずなのに、どうして出てこない。
銀時は机に手紙を置いた。
「キスもセックスもしちゃってるから言いにくいの!機を逃したの!」
「……」
「今でも変わってねぇんだ、ここにかいてあるのと」
まっすぐに見つめあって、しばらく。
「…好きなんだ」
いまさら言わなくたってずっと俺は、言葉になった端から言いだそうと土方の口が開きかける。
そこに今日二度目のインターホンが割り込んできた。
それは何度もたて続けにならされて、かすかにこら、総悟!とか近所迷惑ですよ!とか聞こえた。
「……」
開きかけた口は、一度完全に閉じた。
「…ちょっとすまん。なんか来た」
なんかっていうか、あいつらが。
「あー…、どうぞ?」
背中の視線を感じながら扉を開ける。
「おいこら、うるせぇぞ!」
「あ、すみません」
案の定、そこには近藤と沖田、それと山崎がいた。
止める間もなく靴を脱ぎ出した沖田が、部屋を覗きこんでその大きな目を少し細めた。
おっとこれぁ。
「旦那に先こされるたァね」
思いもよりやせんでした、とわざとらしく言ってにやにや。
近藤も続いて部屋の中を見やる。
「ほんとだ、銀時もいるのか!人気者だな!」
「けっ、反吐がでらァ。背中に気をつけろよ土方」
そしていつもより少しパワーアップした笑顔で、急にきちまってすまねぇがと言った。
「トシ、誕生日おめでとう!!」
あぁ、この人も。
「…ありがとう」
つい、タイミング悪いとか思っていたのも忘れた。
俺も現金な奴だな。
一瞬うかんだ考えは、どうしようもない嬉しさの前ですぐに消えた。
「ここじゃなんだし入れよ」
「大丈夫なのか?」
近藤が部屋の中を指差した。
「俺の部屋だしな」
知らない仲じゃねぇ訳だから大丈夫だろうと思いながらふり返ると銀時が、唇だけどうぞと動かした。
「いいって」
近藤の笑顔がさらに大きくなる。
「よかった!実は色々と買ってきたんだ。」
山崎がスーパーのビニール袋を持ち上げてみせた。
白い袋に緑色のビールらしいラベルが透けている。
「あと柏餅なんかもあります」
「中身はあんこに限らねェぜ。チョコにいかすみ、唐辛子、青虫…」
不吉なことをつぶやきながら総悟は部屋に入っていく。
そうやって狭い部屋がさらに狭くなっていった。
「いらっしゃい」
言いながら銀時が机の上のふたつのコップを角に寄せた。
「すまねぇな、押し掛けちまって。まぁ、一緒に飲もうぜ。トシー、皿とか借りるな」
「おぅ。山崎、箸だして」
「はいよ!」
ぷしっと缶が開いて、賑やかに始まる。
「続きは後でな」
逃げるようで気分悪いがしかたない。
土方は銀時を見ずに言いかけた。
銀時が頷いた気配がした。
「続きってなんのですか?」
「……」
勝手に冷蔵庫を開けている山崎が言った。
「…あれ、山崎いたのか」
「ちょ、ひどくないですか!」
すねる山崎を笑っていなして、明日の二日酔いを覚悟する。
…
「言葉なんて、いつでもいいよ。出てきた時で、な、そういうもんだろ」
どさくさにまぎれて耳元に吹き込まれた。
俺、甘やかされてる。
こたつの中で手をつないでいた。
…
おわり
…
山崎は多分これなんとなくわかってて訊いてる