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とうしろうくんへ
すっかりみどりが目にあざやかな季節ですが、とうしろうくんはいかがおすごしでしょうか
5月5日
連休中の日曜日。
昼すぎにまだ出しっぱなしのこたつの中、うとうと眠りかけていた土方はインターホンの音で起きあがった。
テレビのそばの小さな画面を見ると、それを鳴らしたのは銀時だった。
銀時はいつも通りの天然パーマで、キャンバス地のかばんを肩にかけて立っていた。
そしてそのまま玄関でかばんから薄い水色の紙を取り出して、そこにかいてあるらしいことを読みだした。
「なんなの」
「掃除してたら引き出しの奥から出てきて」
「それで押しかけてきたわけ」
「おみやげあるよ」
「…とりあえず入れば?」
「おじゃまします」
銀時は慣れた様子で部屋に入り、こたつにもぐりこんだ。
「この時期のこたつ、サイコー」
「いい加減しまう」
「しまわなくていいよー」
スイッチ入れてーと言うとごろりと横になる。
土方はしかめ面でこたつのスイッチを入れた。
「お前、何しにきたんだよ」
「あ、そうだった!やばい」
がばっと起き上がる銀時。
「これ!はやく冷蔵庫いれといて」
かばんの中から白い箱を出してきた。
「なにこれ」
「ケーキ」
ケーキだぁ?
「…ったく、甘党…」
土方は少し呆れながらもその箱を持ち上げた。
銀時が、その様子を見上げながらつまらなそうにぼそり言った。
「それ、お前のために買って来たんですけどォ」
土方にはよく聞こえなかった。
「なに?」
なんでもないと言って銀時ははぐらかした。
「とりあえずしまってきて」
そしたらこれの続き読むから。
そう、水色の紙をひらひらふる。
「えっらそうに…頭さげて頼めや」
「いやぁ~ん、土方君おねがぁい」
「死ね」
ぼくが今日こんなふうに手がみをかいているのは、とうしろうくんのたん生日がもうすぐくるからです
机の上に冷えた麦茶を置いて、坂田は手紙の続きを読みだした。
「唐突だなおい」
土方はその時、今日という日をはっきり理解した。
恥ずかしそうに笑って麦茶を飲むこの死んだ目の男がなぜ急に押し掛けてきたのかを。
さっきのケーキの存在価値を。
それで土方も、コップに手をのばした。
何かで顔を隠さないことにはこの場にいられないと思った。
「なぁ、それ見せろよ」
自分で読むほうがましな気がする。
「え、やだ」
「読むのはよくて見せるのはいやなわけ」
「だって読みに来たんだもん」
お前には聞いてほしい。聞いてほしいんだ。
「……」
なんだこいつ、と土方は思った。
とうしろうくんに会うといつもぼくはいやなことを言ってけんかになってしまうから、手がみをわたすことにしました
なぜいやなことを言ってしまうかというと、ぼくにもわかりません
だからばばぁにそうだんしました
そこで銀時は言いよどんだ。
無意味な咳払いを何度かした。
それからちらっと土方を見上げた。
下唇をちょっと噛んで、眉が下がって、情けない表情になっている。
「つまるぐらいなら見せりゃいいのに、な?」
目が合ったので土方は首をかしげてみた。
「いや、続き、読みます」
「…はい、どうぞ」
ばばぁは、ぼくがとうしろうくんのことをすきだからそうするんだって言いました
だからぼくはいっしょうけんめい考えて
「……」
「……ごほん」
とうしろうくんがすきです