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じめじめと雨の多い季節だった。
その日も、団子屋のくすんだ窓に雨が打ちつけていた。
「旦那ァ。」
「何。」
黙々と団子を頬張る銀髪。
ちなみに俺の金で食っている。
「梅雨って何であるでしょう。俺ね、それがもうね。すっげぇ嫌。すっげぇ嫌でさ。すっげぇ嫌でさ。」
言ってる内に気分が盛り上がってきて、もう一度いってみた。
「すっげぇ嫌でさ。」
「まぁ、わからない訳じゃないけどね。」
この人特有の気の抜けた笑顔が視界の端に映った。
陶器の湯飲みで暖を取りながら話す。
「それもこれもあのバカの所為なんでさァ。旦那ならわかるでしょ。」
「万事屋銀ちゃんが聞いてやろうか。」
団子ももらっちゃったしさ。
「別に話すほどの事じゃありやせんが、まぁ、聞いてもらいやしょうかね。」
こんな嫌な雨の日でした。
「半年位前の事でさァ。旦那覚えてますかぃ?アンタ、土方さんが全然出てこないんで屯所へ乗り込んできて、喧嘩相手が居ねぇとつまんねぇんだよ、とか言って…。アレは面白かったなァ。」
「そう言えばそんな事もあったような、なかったような…。」
ありやした。
「そん時は山崎が上手い事アンタ追いだしたんですが、実は土方さん、屯所に居なかったんです。」
「…………。」
旦那の団子を持つ手が止まった。
「どういう事?」
「大怪我して入院中でした。」
その雨の日、市中廻りに出た土方さんが、時間になっても戻ってこなかったんです。
「俺達がじりじりしてる内、電話があって、ゼェゼェ荒い息の後、至急隊士5名ほどって聞こえやした。」
そしたら、すぐプチっ。
「切れちまって、場所も、何が起きたのかも何にもわかんなくて……あーホント、今話しててもイライラしやす。」
「それで?」
「携帯の電源は入ってたんで、居場所はわかったんです。それで、とにかく行かねぇ事には始まらねぇってんで、俺が隊士4人連れて行きやした。」
「それで?」
「もう、血の海でさァ。」
おそらく攘夷浪士だろう死体が7と、土方の死体もどきが1。
「茫然としやしたよ、そりゃあね。でもまぁ仕方なく連れてきたのに死体の片づけ頼んで、俺は土方車に突っ込んで病院に運ぼうとしやした。」
散々罵りながらね。
「それで?」
「ここからが傑作なんでさぁ。」
自分でも歪んだ笑みを浮かべているのがわかった。
「アイツの言う事にはね。」
俺は真選組のためになら喜んで死ぬよ。
「だそうですよ。」
そう。
土方さんはそう言ったんだ。
血濡れの顔で、笑顔を作って、苦しい息の中で。
「もうさすがの俺もキレちゃって。土方の胸倉つかんでやったんです。」
それで言ってやったんです。
「俺を怒らせたいんですかぃ。」
俺は、今ここでアンタを殺しちまえるんですぜ?
「…………。」
旦那の目が、じっと俺を見つめていた。
「できるはずもないんですがね。」
湯飲みのお茶はとっくに冷めていた。
涙で視界が歪んで、あん時の土方さんの笑顔が思い浮かんだ。
土方は、
「お前がそうしたいならそうしろよ。」
と言った。
俺の苦しい気持ちも知らねぇで!
「でもな。」
銀髪が、冷えた湯飲みを見ながら言った。
「きっとアイツはわかってんよ。」
お前の複雑な気持ちも全部。
「わかった上でほざいてんだよ。」
そう、言った。
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終わり
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